講義要項 2014
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法学部法学科104【専門教育科目】開講学年入学年度対象学科科 目 名担 当 者3・411~法法哲学B岡嵜 修〔講義目的・講義内容〕 19世紀後半から今日に到るまで、資本主義社会を支えてきた重要な倫理思想の一つが、功利主義です。功利主義は、「最大多数の最大幸福」という標語に示される価値観を打ち立てましたが、これを基礎に欧米では資本主義が発展し、近代の産業社会が形成されてきました。 今ではこの功利主義に対する批判がさまざまな方面から出ていますが、法哲学Bでは、法価値論を基礎に据え、19世紀に功利主義が唱えられて以後、それが近代社会の形成にをどのように貢献したのか、また今日、功利主義がどのような視点から批判されているのかを見てゆくことにします。 19世紀のイギリスで功利主義を唱えたベンサムは、社会契約思想や自然権論を非現実的なものとして批判するとともに、自由の擁護とデモクラシーに向けた社会改革を遂行しました。 功利主義の哲学は、社会はいかにあるべきかという統治の基本に関わる価値観を示したものです。現代人は、それを半ば当たり前のものと受け取っていますが、功利主義が登場した時代は、これが決して当り前でなかった時代です。 今日の功利主義に対する批判も、功利主義の価値観が長年に亙り支配的であったことを前提にしたものです。これらのことを踏まえ、功利主義者とその批判者との考え方の違いを見てゆくことにします。〔到達目標〕 批判的な議論を見ながら、何を目的としてどのような技法を用い、相手の足元を切り崩しその主張に対抗してゆくか。功利主義とそれに対する批判を通じ、そうしたやり方が分かるようになる。 これを理解すれば、さまざまな論争の場面においても、その手法を随所で生かすことができる。〔授業計画〕1.「トリアージ」はなぜ許されるか2.「最大多数の最大幸福」が意味するもの3.自然権は本当にあるの?4.法によって社会を変える?5.法は神のものか人のものか:自然法論と法実証主義6.歴史法学の役目:改革とその抑制7.功利主義とデモクラシー・自由8.小テスト9.科学の発展と数量化10.「権利論」はどう生かされるか11.資本主義社会での自由・平等12.小さい政府と自由の擁護:R・ノージック13.経済格差を抑える試み:J・ロールズ14.共同体論と美徳の復権:M・サンデル15.まとめ:正義論とその問題点〔履修の条件・注意事項〕 法哲学は基礎法学に属していますが、これは決して基礎的な易しい話をする講座を意味するわけではありません。功利主義とその批判を考えることは、かなり高度な理論的理解を必要としますので、すぐに理解することは難しいかもしれません。自分が「当然のこと」と考える価値観の仕組みを理解することも、必ずしも容易ではありませんが、自分の足元を改めて見つめ直すつもりで受講してください。〔成績評価基準・方法〕 小テスト (40%) と定期試験 (60%) の成績を加えて評価を下します。また、受講者の理解の度合いは、質問を聞くことを通じて判断できますので、講義中に良い質問があれば、それも加点対象とします。〔テキスト〕 教科書は指定せず、引用を含めた自前のプリントを使って講義を進めます。〔参考書〕 小林正弥『サンデルの政治哲学』(2010, 平凡社新書)/長谷川・角田編『ブリッジブック法哲学』(2004, 信山社)/その他は講義や資料を通じて指示します。
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