講義要項 2014
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法学部法学科100【専門教育科目】開講学年入学年度対象学科科 目 名担 当 者3・404~法法思想史A岡嵜 修〔講義目的・講義内容〕 近代とは何か。分かっているようで分かり難いこの問いを、法律、経済、政治までを含めた関係を通じて概観します。 民法に見られる各種の規定も、この近代化へのプロセスの中から19世紀に生じたものである点に注目すれば、法思想史は決して過ぎ去った昔話をするための講座ではありません。現代の法の規定が、社会の変化に伴ってどのようにして誕生したのかを理解する上で、法思想史の知識は欠かせないものです。この講座では、歴史上の変化を政治と経済面から振り返り、近代化と個人主義化との間には密接な関係があることを示します。 近代法の一大原則である「契約自由の原則」は、今では当たり前のものと思われていますが、これは、身分が支配していた封建社会が崩壊し、ビジネスの隆盛に伴って個人主義が開花した、19世紀になってようやく実現したものです。徐々に発展してきたビジネスが、前近代社会における自給自足経済の足元を揺るがし、封建社会の基礎を損ねる形で、近代資本主義経済の展開へとつながりました。 民法で物権と債権という二大領域が出来上がったのは19世紀のことで、私有財産制度、所有権の絶対、契約自由の原則、完全権利能力という民法の仕組みの中に、この資本主義の骨組みが法的な形で示されています。〔到達目標〕 近代に関する理解を深め、近代社会とそれ以前の社会との違いをより良く説明できるようになる。 社会に起きるさまざまな問題を、独自の視点で分析し、自分の理解をもとに説明できるようになる。〔授業計画〕1.法思想史はどのような学問か:オリエンテーション2.ありのままにものを見ているか? (認識論の基礎1)3.個人主義は利己主義とは違う (認識論の基礎2)4.封建社会での労働は 「ご奉仕」 (身分社会とは1)5.慣習法の支配:一存での決定を阻むもの(身分社会とは2)6.奉仕から財産へ:労働の意味の変化 (近代化とは1)7.「主人」 と 「奉公人」:身分社会での責任のありか(近代化とは2)8.小テスト9.近代以前の取引風景(ビジネスの近代1)10.私益の追求を認めた近代社会(ビジネスの近代2)11.社会契約論と市民社会(「身分」 から 「契約」 へ1)12.契約社会とはどのような社会か(「身分」から「契約」へ2)13.「レッセ・フェール」と立身出世:身分の支配が消えた証(自由と自律1)14.競争する自由(自由と自律2)15.共同体主義と父権主義(日本の社会分析例)〔履修の条件・注意事項〕 親子心中は、日本では同情すべきものとされますが、アメリカでは他人の殺害と同じこととみなされます。これはいったいなぜなのでしょう。こうした違いがなぜ生じるのかを考えることは、法思想史の重要な課題です。 法の研究は、制度だけに限定されるわけではなく、それを運用する人の考え方や心理面の問題も含まれます。法律面だけに限定することなく、さまざまな分野に興味の関心を広げ、講義に臨んでください。〔成績評価基準・方法〕 小テスト (40%) と定期試験 (60%) の成績を加えて評価を下します。また、受講者の理解の度合いは、質問を聞くことを通じて判断できますので、講義中に良い質問があれば、それも加点対象とします。〔テキスト〕 教科書は指定せず、資料の引用を含む自前のプリントを配布して講義を進めます。〔参考書〕 ジョン・デューイ/清水訳『哲学の改造』(岩波文庫)/ジェイコブ・ブロノフスキー『科学とは何か』(みすず)/ロバート・ハイルブローナー/八木他訳『入門経済思想史』(筑摩学芸文庫)/他は講義と資料を通じて指示します。
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